大学の衛星システム では、全国から集められたすべてのデータを、 中継局がリアルタイムで6Mbpsの情報速度をもつ単一の回線に束ねて 配信しています。したがってこの配信系を受信することにより、 すべてのデータを手元に取り込むことが原理的にはできるわけです。 配信されているデータは、全国分だと約1500観測点、4800チャネル、 1日あたり40GB近い膨大な量になります。 またその中にはチャネル情報の利用が制限されている非公開データも 含まれていますので、実際には配信されているデータの中から、 必要なチャネルのデータを取り出して利用することが必要です。 衛星データ受信専用装置は、小型のパラボラアンテナで配信系回線を受信し、 必要なチャネルのデータを取り出してオンライン自動収録処理を行う装置です。
ここでは、 地震研究所の共同利用で貸出し をしている衛星データ受信専用装置 の概要についてご説明します。
衛星データ受信専用装置の主な構成要素は次の3つです。
ラップトップ型のパソコンを使った「可搬型」と、
タワー型のパソコンを使った「据置型」があります。
可搬型は卓上スタンド付きの45cmアンテナを 持ち、非常にコンパクトで観測現場での利用向きです。 台数が少ないので短期(原則として1ヶ月以内)の利用に 限り貸出しを行います。 |
据置型のパソコンは
キーボードと液晶ディスプレイ(XGA)が分かれたタイプです。
アンテナは45cmまたは1.2mのものが選べます。
現在1.2mアンテナで東京でのC/N(carrier/noise)は17dB程度あり、 チューナーの再生限界C/Nは5dB程度とのことですから、マージンは 12dB程度あります。 一方、降雨時には普通の雨で数dB〜5dB、大雨で5〜10dB、 土砂降りで10dB程度以上の減衰が見込まれます。 1.2mのアンテナと45cmのアンテナではゲインに 8.5dBの差がありますから、降雨時にはそのぶん1.2mアンテナのほうが 有利になります。 |
1.2mのアンテナの場合は、しっかりした台が必要です。
カウンターウェイト方式
は鉄製の井桁状の架台の上に
アンテナを取り付ける方式で、井桁を地面に固定することをせずに、
井桁の上に500kg程度のコンクリートの
重りを載せて安定させます。必要な面積は 3m x 3m 程度です。この
場合はコンクリートおもり以外の井桁部分もアンテナと一緒に貸し出します。
防水加工された
屋上等の場合は、防水層を傷めないようにゴムシートを井桁の下に敷く
必要があります。カウンターウェイト架台の設置は、人手さえあれば
利用者でも可能です。
カウンターウェイト方式以外には、コンクリートで架台を作る
ベースマウント方式などがありますが、これらの場合には
アンテナの首から下の架台部分は利用者側で用意していただくことに
なります。架台を作る工事は業者に依頼する必要があるでしょう。
45cmのアンテナはCSテレビ用の 市販品(マスプロ製 CS45C)です。 地震研からはアンテナと室内スタンドおよび10mの同軸ケーブルを 貸し出します。一時的に受信してみるだけなら室内スタンドでも十分 利用可能ですが、長期間利用する場合はアンテナを屋外に固定する 必要があります。市販の金具を使って屋上の手すりなどに簡単に取りつける ことができます。壁に穴をあけて取り付けたりケーブルを通す場合は、 業者に依頼する必要があるかもしれません。
衛星(N-STARb号)の軌道位置は赤道上空の東経136度で、 衛星の方位角/仰角は、北海道で190度/40度、大阪で180度/50度、 沖縄で160度/60度程度です。この方向の空が見える場所にアンテナを 取りつけてください。 アンテナを取りつける金具や台が用意できたら、アンテナを正しく 衛星に向けて固定します。 地震研からBS/CSチェッカーという 測定器を貸し出しますので、 これをアンテナに接続して、数字とバーで表示されるレベルを見ながら 上下左右にアンテナを振ってみて、一番高い数値のところで固定します。 ただしN-STARb衛星はBSやCSテレビ放送のような強力な電波を出してないので、 チェッカーに表示されるピークはちょっとわかりにくいかも知れません。
アンテナからの同軸ケーブルを室内に引き込み、チューナーの 1G IN端子に 接続します。トランスポンダー番号と周波数を設定すると、 緑色のSYNCランプが点灯して、 正しく配信系を受信していることを 示すはずです。チューナーは専用装置なので、別の電波を受信して SYNCランプが点灯することはありません。 アンテナの方向調整で、 BS/CSチェッカーでは十分な強度でレベルが表示されていたのに SYNCランプが点灯しないときは、 アンテナが間違って隣の衛星を 向いてないか疑ってみてください。軌道位置で4度隣には別の衛星があり、 同じKu帯周波数で電波を出しているのでチェッカーによるレベルだけでは 判別できません。
SYNCランプが点灯したら、チューナーの DATA OUT端子には配信系 データが出力されています。チューナーとパソコンはRS-422ケーブル (5mのものが付属)で接続してください。
パソコンのOSはFreeBSDで、貸出し時には動作を確認できる程度の 設定はしてありますので、電源を入れて立ち上げれば一応収録処理を 開始するはずです。ただし、ユーザーやネットワークについては 利用者のサイトに応じた設定が必要ですし、収録チャネル・保存データ量・ トリガー収録のパラメータ等の設定も、必要に応じて必要になります。 したがって、利用者側でこれらの設定ができる程度の知識は必要になります。 FreeBSD になれていない場合は、まず解説本を読むことをお勧めします。
パソコンのFreeBSD上で動いている地震波データ収録処理ソフトは、 WINシステムです。 現在の設定ではブートと同時に 自動収録処理が動くようになっています。 自動収録処理はユーザー auto の crontab で /home/auto/_win の内容を 起動するようになっています。 ユーザー auto では、startx で twm が動くようにしてあります。 衛星からのデータ取り込み状態は、とりあえず "shmdump 11" コマンドで 共有メモリー11番を覗いてみればわかります。データが入ってきていれば、 パケット内容がつぎつぎにダンプされるはずです。
貸出し時の設定は一通りの動作を確認するためのものです。 利用者の必要に応じて調整・変更してください。 WINシステムの各プログラムの使い方は、kterm で "man コマンド名" でオンラインマニュアルが見えるはずです。これは地震研究所観測センターの webページで見えるものと同じです。 /home/auto/_win に記述されている各プログラムの機能をマニュアルで 調べれば動作の概要はわかると思います。
パソコンのディスクには数GBの余裕があるので、一般的な設定では、 数時間〜数日分の連続データ、数週間〜数ヵ月分のイベントデータを 蓄積しておくことができます。それに自動検測処理による震源データも 蓄積されていきます。パソコン上でもさらにある程度のデータ解析処理は 可能ですが、LANを通じて他の計算機からデータを利用するための FTP/NFSサーバーとしても使用可能です。
衛星データ受信許可を受けた利用者は、大学衛星システムの メーリングリスト eisei@tkyfep.eri.u-tokyo.ac.jp に登録され、 衛星システムの情報が届くようになります。 チャネル情報は、変更があると当該大学の担当者からeiseiメーリングリスト に流されます。また最新の情報は、地震研のとりまとめ 担当窓口アドレス eisei-info@tkyfep.eri.u-tokyo.ac.jp へ請求していただけばその都度お送りします。