深部ボアホール総合観測の威力(伊豆半島群発地震で観測された前兆変動)
地震研究所においては前述のようにボアホール地殻活動総合観測装置を開発し、複数の観測点で観測を行っていますが群発地震発生域にある伊東においても観測を行っています。観測は1995年10月から開始していますがその後発生した規模の大きいすべての群発地震の場合、すなわち1996年10月、1997年3月と1998年4月の群発地震において地震と関運した前兆的異常データが観測されました。この図は伊東観測点に設置されている地殻活動総合観測装置およびボアホールの断面図を示しています。ボアホールは深さ150mで観測計器は歪計(3成分)、傾斜計(2成分)、加速度計(3成分)、温度計、ジャイロから成っています。この図は1995年から1998年まで発生した4回の群発地震の震源分布で地震研究所(1998)により決定されたものです。伊東観測点の位置が示してありますが震源のすぐ近くに位置しています。この図は3回の群発地震で観測されたデータの一例として1998年4月10日から5月13日06時20分までの3成分の歪と傾斜のデータです。群発地震発生に関連して異常な歪みと傾斜の変化がみられます。地震に伴うステップが歪・傾斜ともに見られます。この傾斜計はオイルダンパーおよびフィードバック回路を使用していないため傾斜ステッブも良好に記録しています。点のバラツキは地震による振動です。他の2回の群発地震においても同様な異常変化が観測されています(地震研究所、1997)。次に地震発生前後のデータを詳しくみてみます。この図は1996年10月、1997年3月と1998年4月の群発地震発生前後の最大傾斜下降ベクトルと最大主歪の変化を示しています。最大傾斜下降ベクトルとは傾斜が最も大きい方向と大きさの時間変化を示しています。最大主歪の変化とは最も歪みの大きい方向と大きさの時間変化を示したものです。歪に関しては見やすくするために1日ごとにずらして示してあります。傾斜も歪も群発地震発生前
から異常変化を記録しており、北北東一南南西方向
に作用しているテクトニックなテンション(引っ張
りの力)の応力方向と同様な方向を示し密接に関連
しているように見えます。群発地震発生前から傾斜
には明らかに異常変化が見られます。すなわち群発
地震発生の2日位前から通常の日変化のパターンか
らはずれてテクトニックな応力方向に変化が加速し
て群発地震が発生しています。歪変化に関しては群
発地震の発生が近づくと主歪が通常と異なりテクト
ニックな応力方向に向かうとともに大きなテンショ
ンを示し、岩石破壊実験に見られるように加速・停
滞して最初の大きな地震発生となっています。この
観測結果は実験室におけるデータと非常に類似した
変化を示しています。この観測点では観測された3
回の大きな群発地震すべてにおいて同様な変化を示
しており、今後も同じ変化で地震が発生するならば
誰でも地震の発生を予知することが容易と考えられ
ます。しかしながら一層の事例の蓄積をして確実性
を高めることが必要です。
このような観測結果は震源に十分近いところで地
下深部の高精度観測を実施すれば前兆的な変動を観
測することが可能であることを示しています。伊豆
の場合には地下水や地下ガスの移動あるいはマグマ
の貫入にともない地下岩盤が弱くなるとともに加わ
っているテクトニックな力の方向に変形が進行する
ために観測されたような前兆変化を示すと考えられ
ます。それを説明するモデルは現在構築中です。